本

『英文の読み方』

ホンとの本

『英文の読み方』
行方昭夫
岩波新書1075
\777
2007.5

 英語のワーシップソングの歌詞を、日本語にしたくなった。幸い、単語としては、聖書に関連して、限られてくるので、信仰心があれば、言わんとしているところは、比較的よく分かるような気がした。
 もちろん、歌詞にのせるという作業は、簡単なことではない。が、思い切って言葉を切りつめて歌詞にするという目的があったために、英文和訳ではなく、その意味を、あるいは意図を、さらにはスピリットを、なんとか同じような背景をもつ日本語にすることができないか、を模索する良い機会となった。
 この前提があって、この本を見ると、伝えようとしていることが、実によく分かった。
 単語を一対一対応で日本語にできるはずなどないし、言い回しは日本語に落とせたとしても、言わんとしているところ、伝えたい内容そのものは、その文その文で異なってくるし、また文化的文脈的な背景が伴うものであるから、要するにそのスピリットと教養とを兼ね備えた人のみが、正確に文意を伝えることができるようになるのである。
 たくさんの例文をその都度出題するので、ゆっくり読むことを決めてかかれば、十分ゆっくり、自分の実力を悟りつつ、読み進むことができる。
 最後に著者が言っているとおり、これはハウツー本ではない。学問に王道なしというが、翻訳にも、楽ができる道はない。様々なことに興味をもち、文化の背景を知り、柔軟な理解力をもつように、努力すべきである。翻訳の仕事がしたいという多くの声に対して、そのように答えている。
 結局、日本語だけを読んで、背景にあるものを十分伝えるのでなければならない。日本語の文章として、誤解なく読みとってもらうことのできるものでなければならない。そのためには、もはや原文など見ないで、翻訳だけを通して読んで、矛盾や意味の解しにくいところがないか、客観視する努力をしなければならない。
 英語の語法そのものというよりも、翻訳の例題と注意点という意味で、この本はまさに、翻訳教室とでも言うべきところなのだろうと思うが、本のタイトルは、英文の読み方となっている。その部分もたしかにあるが、専ら、翻訳の醍醐味のように受け取ってしまった。
 英文を、他人に伝えることができるほどに、意味を消化しつつ、日本語にしていくという作業である。ただの「読み方」ではないものだろう。私たちは、自分の好みの話の領域について、楽しく英文を読んでいくことが、もっとできるのではないだろうか。




Takapan
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