本

『英文法解説』

ホンとの本

『英文法解説』
江川泰一郎
金子書房
\1700+
1991.6.

 今度は英文法の参考書の、定番のものである。面白みはないだろう。硬すぎる。しかも1991年のまま変わっていない。それが今なお増刷され続けており、絶えることがない。なんともすごい。この1991年というのは第三版であり、初版は1953年である。1964年に一度改訂されているが、そこからこの改訂第三版である。
 そしてその後は改訂がない。著者が2006年に亡くなったからである。
 がっちりしている。だが、最初から順に読め、とは言っていない。どこからでも、どのようにでも内容に触れていけばよい。このスタイルは、近頃の、参考書なるものを使いこなす技術に乏しい若い受験生には不評のようである。ひたすら例文を多用し、実際の英語での使われ方やニュアンスを披露するなど、今風ではないと言えよう。今ならば、苦労は最小限で効果は最大限にしたいから、逸早く手っ取り早い法則を目の前に出し、ほらこのとおりいけるでしょ、というふうに少し例示すればよいだろうし、また、その陰に萌え系のイラストでもあれば売れそうである。しかし、この本にはイラストの「イ」の字もない。昔の旧い文法書のオーソドックスなスタイルである「§」に通し番号があるスタイル自体、意味不明となるかもしれない。ただ例文を並べているだけでつまらないほんだ、という評がネットによく見られる。だが、これがギリシア語なりラテン語なり、古典語を学ぶときのやはりオーソドックスなスタイルなのだ。これは私のアトバイスだが、クラシックなスタイルの学びというものに、どこかでいくらかは触れたほうがよい。それはもう古いとか、今風でないとか言って避けるのは、何かと損をするであろう。人類の知識遺産を受け継ぐとき、大昔からのスタイルというものには、何らかの形で触れてなじんでおいたほうが間違いなく自分の動きもよくなる。そればかりでなくてもよいが、それは「使える」ようでありたい。
 さて、英語の参考書としてこの本がどのような位置を占めるのか、それを判断するような力は私にはない。だが、これは元来、大学受験を目指す高校生のために書かれたものであるらしいことを知るとき、愕然とする。半世紀前の高校生は、こんなにもレベルの高い学習を常としてきたのだということに。とんでもない内容である。現実の英語の使われ方や頻度などを考慮して、また文法的に正しいという意見もあれば誤用だという意見もある、というような説明は、英語の研究所ならともかく、学習者にばんばん見せるような内容では本来ないはずである。それがたくさん書かれている。つまり、英語の文法的な疑問が生じたときにこの本に当たれば、解決の糸口が掴めそうなのである。実際、私はずっとこれを読んでいる。まだ正直言って隅々まで全部読んだとは言えない状態なのであるが、知らないこと、初めて聞くことに幾度も出会った。また、中学生に英語を教えるとき、何気なく説明していたことの根拠を見出したり、むしろこのように教えればよかったのだなどと反省させられたり、実に勉強になるのである。普通に中学の教科書に出てくることで、分かりはするが説明がうまくできなかったかもしれないことが、この文法書によれば、簡潔に説明できるということに気づいたとき、目の前が晴れやかになるのを確かに感じた。そういう経験をさせてくれる本である。
 そういうわけで、今の高校生の諸君にはなじみにくいかもしれないが、大人がどこかで必要を感じて英文法をきちんと修めたい、あるいは理由を知りたい、と思ったときに、この本は手元に置いて損はない。むしろ、これだけの内容を備えた500頁を超えるものが、いまの時代に税込みで1800円余りで手に入るということが、たまらなくうれしいと感じないだろうか。
 私は、『身につく英語のためのAtoZ』(岩波ジュニア新書)の中での推薦に従って本書を知り、購入した。昨今のスラングを知りたいだけの人には、無用だろう。だが、少しでも文献的な探索をしたり、歴史的な英文学に触れたりする場合に、こんなに強い味方はない、と思うような本であった。




Takapan
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