本

『キューバ現代史』

ホンとの本

『キューバ現代史』
後藤政子
明石書店
\2800+
2016.12.

 現代史として、「革命から対米関係改善まで」の副題の下に、キューバの政治を一気に描く。その古代史を繙くわけではない。15世紀末にスペイン人に「発見」され、植民地としてスペイン語をはじめスペイン文化に染められていく。インド人と当初呼ばれていたが、19世紀後半から独立への闘争が盛んになり、ホセ・マルティが指導者となり、独立の父と呼ばれるようになった。そこに介入していたのはアメリカであった。つまりは、独立したとはいえ、今度はアメリカの傘下に入り、アメリカの保護国としての歩みが始まったのであった。
 キューバは砂糖の生産で国が成り立つほどであった。政治が安定しないこともあり、クーデターで政権を奪ったバティスタ政権がアメリカと結びつき、キューバの経済を占有するようになった。アメリカもそれで潤うのだった。
 アメリカの植民地のようなものだった。20世紀後半、フィデル・カストロが先頭に立つ青年たちが反乱を起こすが一旦鎮圧される。カストロは恩赦後メキシコに亡命していたが、その間、キューバ経済はひとまず安定したものの、バティスタの独裁政権が続き、貧民は報われなかった。
 カストロは、アルゼンチン出身のチェ・ゲバラと出会いキューバに入ると、ゲリラ闘争により、ついに独裁者を追い出すことに成功した。バティスタ政権関係者を処刑して首相としてカストロが国を治める。ソ連とは少し違う形ではあったが、国民の幸福を図り、社会主義を目指してキューバをリスタートさせる。アメリカはこれをよしとするはずがない。当時の冷戦構造の中で、キューバはソ連に近づく。
 1961年、アメリカはキューバと国交を断絶。砂糖の輸入を禁止したため、キューバはいっそう社会主義諸国との結びつきを確かにする方向に走っていった。翌年ケネディ大統領はキューバに経済封鎖を行うことを宣告すると、キューバにはミサイル基地が建設され始める。この過程については、本書も、不明点が多いと解説する。ただ、このことで東西両陣営によるにらみ合いが、いつ核戦争が起こってもおかしくないほどの緊張をもたらした。いわゆるキューバ危機である。
 なんとかそれは未然に終わった。アメリカは一部の亡命者を受け容れ、他方キューバは革命思想に則り、ベトナムやボリビアなどにゲリラとして参与する。しかしラテンアメリカではそれは進まず、ゲバラの死後、平和的な革命を推し進めるようになった。社会主義化のために軍を派遣するほど熱心であったが、やがてソ連自体がおかしくなっていく。
 そしてソ連の崩壊によりキューバ経済は大打撃を受ける。キューバ共産党の一党による政治は続くものの、思想や宗教の自由化が盛んになり、アメリカとも関係が改善されていく。が、経済的領域にそれは留まることとなる。国連の度重なる勧告にも拘わらず、アメリカとイスラエルは賛同しなかった。アメリカからすれば、キューバは民主主義に反するのだった。
 2008年にカストロは一線を退き、様々な規制緩和が行われていく。2015年、アメリカとはついに国交を回復する。カストロは、2016年11月に世を去る。
 概略の概略を描いただけでもこれだけの厚みがあるキューバの現代史であるが、本書はこれを300頁にわたり、詳細に描いていく。淡々と描きつつもこれだけの分量になるのであるから、中身は濃い。よほどキューバ史の枠組みを理解していないと、読み進められない。それだけに、価値ある歴史概説となっているということになる。キューバの歴史については第一人者が著し、適切な資料提供の下にまとめられている。一冊でかなり詳しく知りたいという時には最適であろう。
 実は、教会にキューバ出身の方がいて、日本で研究生活をしている。日本語はもう日本人のようにうまいので、私も全部日本語で話ができる。キューバのことをいろいろ尋ねたのだが、最初はスペイン語が母語であるということさえ私は知らなかった。情けないほどに無知であった。そこで、少しはキューバのことを知らねばならないという思いからチャンスを窺っていたら、本書に出会った。その意味で、良い本に恵まれたと思っている。




Takapan
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