本

『コペルニクス 地球を動かし天空の美しい秩序へ』

ホンとの本

『コペルニクス 地球を動かし天空の美しい秩序へ』
O.ギンガリッチ+J.マクラクラン
林大訳
大月書店
\2100
2008.11

 これもまた、オックスフォード科学の肖像のシリーズの一つ。今度はコペルニクス。
 カントが、客観が主観に従うという着目点の向きを換えたことを「コペルニクス的転回」と読んだことは有名である。『博多っ子純情』の中で「コペ転」と呼んでいたのもこういうところから来ているとすれば、昔のギャグはなかなか味がある。
 ともかく、天動説を唱えたとして有名なコペルニクスである。今のポーランド、プロシアで生まれ育つ。カトリック教会の聖職者、司祭として生きた。
 不思議に思うのは、後のガリレオが、地動説を曲げなかったことで死刑寸前にまで行ったことが有名であるのに対して、その地動説をスタートさせたコペルニクスが、司祭としてその点においては波風を立てずに一生を終えたということである。神を称える点で気を配っていたというのもあるし、コペルニクス自身、その説を出版する寸前で世を去ったというせいもあるかもしれない。あるいは、政情などの変化もあって、ガリレオの時代になって不運な迫害が生まれた、と見たほうがもしかすると正確なのだろうか。
 人物の背景を解くとともに、この本では、その地動説が生まれるに至る経緯とその難産であった部分などにして、分かりやすく説明することに成功していると感じる。
 その天球の動きについての図版も適宜入っているし、コペルニクス手書きの文書の写真など、視覚的に理解するための素材も多く入っている。どうしても天動説の複雑な点について、あの周転円の意味やそこから抜け出せない人間のものの考え方といったものにも頁を割かなければならないのだ。そしてそれが功を奏していると思う。その数学的な処理について具体的な数式が紹介されているわけではないが、数学的に緻密な研究を実行したコペルニクスの技について、逆に賞賛を送りたくなる。こうした知識について、数式などではなく、一つのストーリーとして描ききることは、なかなか難しいのであろうが、この本もまた先の『メンデル』に続いて非常に読みやすく感じた。
 当時のアメリカ大陸発見にまつわる勘違いなどを含め、歴史的に大きく動いた時代でもあったので、コペルニクスの価値を広い視野から抑えようという試みがよく感じられて、私としては好い印象をもつ本であった。例によって、少し値が張る点は、またそれはそれで。




Takapan
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