本

『よくわかるクリスマス』

ホンとの本

『よくわかるクリスマス』
嶺重淑・波部 雄一郎編
教文館
\1500+
2014.9.

 冬が近づくと、クリスマスものが出てくる。よくも毎年これだけ、とも思うが、新しいものでないとなかなか買ってもらえない様子もある。それだけ、毎年似たようなものばかりしか出ない、ということでもある。
 クリスマスのトリビア、とまでは言わないが、クリスマスの謂われや背景についての蘊蓄心を満たすものもよく出てくる。テレビの知識クイズが受け容れられている世相であるから、クリスマスについても「実は……」というようなものにそれなりのニーズがあるのは確かだろう。書店で開いてみると、ああまたか、というような内容が漂うし、中には明らかに都市伝説に過ぎないようなことまでが、事実であるかのように書かれているようなものも目につく。
 そういう意味で、クリスマス蘊蓄ものについては、少しばかり警戒心が働くようになっていた。が、今回それを見事に裏切ってくれるものが出てきた。それが本書である。
 タイトルからすると、またか、と思わせるような雰囲気もある。だが、これは違った。教文館という、キリスト教の本物を提供する会社からの本であるせいだろうか。今年は「花子とアン」が放送されていたが、その村岡花子が勤めていたのがこの教文館である。何か違うのだろうか、と手にとってみると、驚いた。
 殆ど学術論文であるかと思わせるような内容だったのである。しかし、そんなに硬くはない。註釈ではなく、参考文献という形で参考資料が紹介されている程度である。しかし、内容は実に深い。そして、私も知らなかったようなことがたくさん書いてあるではないか。そうか、史料からいくとそういうことなのか、と改めて目を開かせて戴くことになった事柄も随所で触れることができた。驚きである。
 まず、最初の、聖書に描かれたクリスマスについての説明から、通常とは違った。そもそも福音書によりクリスマス物語は違うのであって、それを一つにまとめてよく紹介されていることそのものが、聖書とはもう違っているのだ、という、当然といえば当然の指摘が、クリスチャンに反省を促すものだと目に映った。いつの間にか、様々な福音書の記述を自分に都合のよいようにつないで、これが真実だとばかりに提供するようになっている私たちであるが、考えてみると、それは適切でないはずである。私たちが勝手に編集したことになるのであって、いわば聖書に余計なことを書き加えていることになりかねないからである。
 コラムが随所にある。これがまた、いろいろな思い込みへの鋭い指摘がある。なぜ博士が三人か。いや、そもそも博士とはどういう人なのか。それなりの指摘や理解が私たちにもあるものだが、それを常に超える何かがこのコラムには記されている。ルターの意義から、スコットランドではどうだ、スウェーデンではどうか、と、あまり光の当たらなかったところにスポットライトを当ててくる。コラムではなく本章として、スイスをぶつけてくるところも渋い。さらに、中華人民共和国のクリスマスとなると、通常の本にはまず触れられていない。私の教会にも中国から来ている人がいるが、その方の背景にあることも、これまで分かったようなつもりであったが、目から鱗が落ちるような思いでこの本を開くしかなかった。
 最後に、文化的な視点が検討されている。文学や美術、音楽そして映画といった具合である。そこにも、関係するコラムが用意されており、興味深く拝見することができた。内容やつくりは少しばかり硬派だと言えるが、なかなかどうして、知的好奇心に応える、内容の濃いものであった。これらは、それぞれの分野でのエキスパートが筆を揮っており、それぞれに専門的な視点から、広く深い研究結果が十二分に反映されている。それだけ資料的も信頼のおけるものであり、現場に行ったことがなければ知ることのできないような内容も多々紹介されている。
 これは確かに「よくわかる」クリスマスである。分かったようなフリをしていた自分が恥ずかしくなる。クリスマスについて何かを知るために、特に歴史的背景と文化的現状を理解するためには、右に出るものはないくらいの内容ではないかと思われる。その上、その質と量からしても、実に安価だと言える。
 最後に用語集もあり、便利だが、可能なら、やはり索引を付けてほしかった。そこまで気が回らないか、あるいは不要だという判断をなさったのかもしれないが、本を一度だけスッと読んで終わりだとしてよしとするならばともかく、後でどこにあったかと調べるような利用法を考える場合には、索引は不可欠である。そうでなくても、途中でどこかにあったあれは、と思ったときに、なかなか調べられない。また、後からふとあることについて記述を見たい場合も出てくる。索引自体は数頁あるかないかでできるため、そこまでお願いしたかったものである。
 それから、用語集の前の部分は、お子様は読まないほうがよい内容が取り上げられている。内容が優れている本であるから、小学生の子にも読ませようかとお考えの親は、要注意であるので、付け加えておくことにする。




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