本

『キリスト教と仏教』

ホンとの本

『キリスト教と仏教』
渡辺暢雄
新星出版社
\1165+
1994.5.

 この二つの宗教の対比は、日本人には興味深い。これができるのは、よほど見識の深い人であろうが、一般に、自分の立つ側に肩入れしてしまうものである。ひろさちや氏がこの仕事でよく知られているが、なかなか公平な視点を提供してくれているようで、ありがたい。そこへいくと、この書では、牧師という立場からか、キリスト教を強く言うような形になっていると思う。私だったらその場合、タイトルは「仏教とキリスト教」にするのだが、本書はキリスト教が先に挙げてある。通常、中心となることを後のほうに置くと思われるから、仏教タイプかしらと思うと、そうでもないという印象をもたらす。
 ただ、仏教についての知識は相当なものである。経歴を最初に知るとよかった。元は仏教の学びをかなりしている方だったのである。ほかにも、仏教者から牧師になったような方のことも記されており、それ相応のことを知っていることは間違いない。ただ注意しないと、逆に仏教の方がキリスト教についていろいろ批判的な意見を記したとき、時に的外れや不見識によるものであることが多々あるわけだが、同じことが仏教について説明するキリスト教関係者の文章にも含まれている可能性がある。宗教というものは、なかなか批判や言明ができないものだ。なにせ、現場というものは、ただの文献とはまた違うものを含むわけだし、長い歴史の中では様々なことが起こっている。まして、解釈の違いとなると実に様々であり、寺院ひとつひとつで考えが異なるということもある。一概に言ってしまうと、きっと、それは違う、という声が上がってくるであろう。
 比較宗教というのは、非常に勇気のある営みなのである。
 しかし、その点を弁えて読むならば、読者には有益なことも多い。
 ここでは、私のような者には馴染みのない仏教の世界を並べつつ、キリスト教の特色が豊かに語られている。ひいき目に書かれているような印象ではあるが、それを意識してか、仏教についての記事を多めに用いつつ、それでも専門的ではなく、一般的な叙述として、それを果たしている。だが、そうとうにどちらの側からしても、詳しいものがあり、安易な比較対照を試みているわけではないことが分かる。
 キリストの福音を解き明かす。本の帯にある言葉のとおりに、この本は、聖書の神を伝えようとしている。仏教について軽んじているわけでもなく、十分尊敬を以て扱い、敬意とともに語られている。ここから、仏教について非難をしたり揶揄したりといったことを読者は考えるのであってはならない。宗教間でそういう眼差しで自分を上とするのではなく、見えないものに目を注ぐために、友に歩んでいきたいという気持ちで読み進めたい。クリスチャンならば、自分の歩みのため、選ばれた自分のことを、神への感謝としていけばよいのである。私たちの足下の岩を、改めて考えればよいのである。




Takapan
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