本

『聖書の読み方』

ホンとの本

『聖書の読み方』
加藤常昭
日本キリスト教団出版局
\1100+
2007.6.

 この2007年というのは、新装第25版発行の日付である。元来1961年11月に初版発行とあるから、なんと半世紀以上昔の本である。しかも著者は2016年現在も現役で福音を語っている。FEBC(キリスト教放送局)でも人気の講師である。かくいう私も、この著者の説教学には常々尊敬の思いを抱いており、学んでいるというものである。
 加藤先生にも、若い頃があった。当たり前だ。だが、その若いときのこの著書に、なんと深く適切な理解と解説が施してあることだろうと、読んでみて驚く。老齢の方がこのように易しい言葉で説き明かすというのなら分かるが、まだ30そこそこの時期の牧師が、このようにもしなやかな聖書の読み方を教えるというのは、私から見れば奇蹟のような出来事なのである。
 そもそも聖書に対する構え方、あるいは立ち位置のようなもの、どういう観点からどういう思いで受け取るとよいのか、そんな実際的なことが、実に温かく、適切に示されていく。私はつねに肯きながら、そうだそうだと自分の心に適した呼びかけを喜んでいく。
 最後には、聖書を学ぶ人と先生との対話物語がある。近頃はこのような架空の対話はあまり流行らなくなったかもしれないが、そう言えばかつてはこういうあり方がなかなか多かった。コペル君の対話により進められていく本は、今なお生きているが、やはりこうしたかつての時代の名作だ。そして対話編といえば、ギリシア哲学の場ではいたって日常的であり、プラトンがそれを印象づけているのも確かだ。ギリシア悲喜劇の伝統の中でそうやったのかもしれないし、そもそもソクラテスの対話術というあり方により思索が深められたこと、そのような対話こそが知を愛することそのものなのだという理解が漂う空気もあった。ここで展開する聖書をめぐる対話は、決してわざとらしくなく、今半世紀を経て読んでも、リアルなものを私は感じる。また、それを傍から聞く読者たる私たちも、有意義で大いに得るところがあると言える。そして、これがかなり長い。長いが、厭きさせない。この対話の中で、よりいきいきとした聖書の読み方のコツというか、スピリットというか、そのような大切なことが紹介されていくようなダイナミックさを感じる。
 かの若さでこれだけの著述ができたということ、本当に尊敬に値する。霊の導きのなすわざはすばらしい。
 もはや古書でしか手に入らないのだろうか、と案じられたが、今調べてみると、新刊扱いとして入手できるようだ。こうした良いものは、息長く読まれ続けてほしいと思う。また読み返して、マーカーをつけたところを拾いつつ、ノートしていこうかと思っている。それだけの価値はある。意味がある。「聖書の読み方」という題の本は多々あるが、その中でも傑出していると言えるように感じた。




Takapan
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