本

『聖書の深読み』

ホンとの本

『聖書の深読み』
兼子啓子
文芸社
\600+
2017.9.

 新刊紹介サイトで、タイトルがちょっと誘うものであったので、注文してみた。NHKでも「深読み」とくれば、よい企画と解説をもたらしてくれている番組である。帯には「聖書の成り立ちを史実と哲学の側面から切り込む!」と書かれており、聖書を現代的視点から読み解くような書きぶりには、そそるものがあった。
 結果。これはとんでもない本であった。へんに紹介すると、却って宣伝になるかもしれないので細かくは語らないことにする、まともに読むべきものではないことだけは保証する。その意味では、本当の本だとしてここに挙げることはできず、本当に読んではならない本である。
 著者は哲学あるいは宗教学を学んだ人のようで、知識のある人だとは思う。聖書をよく学び、書いてあることや一部の学説を丁寧に読んだ形跡がある点は否めない。しかし、これが小説であるならば、芸術の自由を私も認めることに吝かではないのであるが、恰も聖書は深く読むとこのような真実なのである、といわんばかりに聖書のストーリーを物語っていくことは、多くの人に危険である。あることないこと自分の想像あるいは妄想だけで、聖書に書かれていない背景的な心理や事件の成り立ちを飾りつけ、決めつけていくことの連続なのである。それも、多くのことを、聖書の記述に沿いながら、聖書が書いていないところを、自分の想像で必ず明確な理屈づけを繰り返していくという形式であるため、なまじ聖書を知る人こそが、危険な目に遭う。聖書に書いていなかったのはそういうわけだったのか、と引っかかる可能位が高いからだ。偽物は、本物の中にさりげなく混ぜることによって、偽物とは見破られない、ということがある。聖書を知らない人のみならば、学び始めたような人が、どこが聖書でどこが著者の妄想であるのか、区別がつかず、信用してしまう虞があるというわけである
 ひとつだけ例を挙げる。たとえば、イエスの母マリアは、ザカリアとの間にイエスをもうけた、と、淡々と当たり前のように物語を描いて説明している。これは、おそらくイギリスの作家マーク・ギブスの「聖家族の秘密」というセンセーショナルな本の主張を、そのまま利用して書いているものと思われる。一時騒がれて売れたそうだが、一部には、いまもそれを本当と思っている人もいないわけではないようだ。この著者のように。かつてアメリカでダン・ブラウンの「ダ・ヴィンチ・コード」が、マグダラのマリアをイエスの結婚相手に描いて話題を蒔いたが、こういう本もあったのだということを、今回まで私は知らなかった。
 旧約聖書から新約聖書まで網羅しているようで、自分にとり面白くないところは全くあるいは殆ど触れず、想像の翼を羽ばたかせられるところは執拗に詳しく空想話でひきずっていく、それは、それなりに聖書をよく学んでいることを除けば、若い空想好きな少女の描くラノベのような感覚であるようにも見受けられる。とくに、女性のキャラクターを多く描いているが、著者名が女性であることや、女性問題を論じているようなプロフィールからして、さもありなんと思う。女性心理は描きやすいのかもしれない。しかし、小説という形でこの本を出しているのではないわけだから、これはまずい。せめて、私は独自にこのように捉えている、というような書き方が少しでもあれば、それは著者の思い込みでもあるだろう、と読者は構えることができるが、そういうものが一切なく、聖書を深く読めばこれが本当だ、というふうに植え付けるような勢いがあるのでまずいと言っているのである。
 著者については、ネットで見るかぎり、全くの謎である。京都大学などの肩書きもどこまで本当なのかよく分からない。「日本神学研究所」でキリスト教神学を学んだという経歴ですが、この研究所の名は、この著者の決まり切ったプロフィールの他では検索しても殆ど出てこない。このプロフに名前の出ている人が創設した、と記しているが、その情報も実に少ない。もちろん、その牧師に師事した、とは書かれていないのだが、そのように読めるような書き方をしているなど、かなり巧妙である。インターネット世界では、この本にあるのと全く同一のプロフを、あちこちに書き込んでばらまいている。哲学を交えたブログを公開しているが、用語を駆使してはいるが、論理的に何を言っているのかよく分からなかった。
 以前、あるキリスト教テーマの濃い小説があり、サスペンスとしてはそこそこ読ませるものだとは思ったが、著者が謎めいているし、思想的になにかおかしいと思い調べてみると、統一協会関係のものであるらしいと判明したことがあった。今回も何かあるような気がするのだが、2017年9月3日、「世界日報」で紹介された、と文芸社のサイトにあるのを見つけた。




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