本

『アンソニー、きみがいるから』

ホンとの本

『アンソニー、きみがいるから』
櫻井ようこ
ポプラ社
\1260
2008.10

 子どもが読めるようにできている。ポプラ社らしい本である。
 犬が好きな方は、表紙の写真だけで思わず手に取ってしまうかもしれない。扉を開くと、もう抱きしめたくなるかもしれない。
 しかし、著者はもともと犬が好きではなかったという。
 サブタイトルは「盲導犬がはこんでくれたもの」。
 著者は視覚障害者である。しかも、三十を過ぎる歳までは、健常者であった。が、実は視野がじわじわ欠損していたのであった。しかも、聴力も衰えていく病気である。見えないばかりでなく、聞こえなくなる。
 それを受け容れることなど、簡単にできるわけがない。不安や恐怖からどうやって逃れるのか。
 著者は、まわりの人に、支えられていることを感じる。やがて盲導犬との生活に入っていくときにも、その犬だけでなく、犬を育てた多くの人々の心と一緒に立ち上がっていく。さりげなく書かれてはいるけれども、顔中血だらけになる悲しい事件には、読みながらこちらは憤ってしまった。
 しかし、著者は、人のことを悪く言わない。これは、小学生向けでもあるこの本の故なのであろうか。それにしても、実に清々しい。言葉にならない苦難を超えて、私たちに、著者が感じたような「風を感じ」させてくれる。私たちは、忘れていた何かを思い出すことができるような思いがする。
 いつも言うことだが、子ども向けの本を大人は読むべきだ。そこに宝が潜んでいる。私たちは何を悩んで生きているというのか、問題を突きつけられることもある。何が大事なのか。何をすればよいのか。読者を、生かしてくれる。読者に、命を与えてくれる。
 この本は、盲導犬協会の協力もあったのだろう、盲導犬に対する理解も教えてくれる。餌を与えたり、頭を撫でたりしてはいけない。情で出会うのも禁物である。冷たいように見えるかもしれないが、淡々と振る舞うべきだ。巻末の付録の部分を見ると、たくさんの知識を得ることができる。
 教会で視力障害のある方とのおつきあいもあったものだから、そこそこのことは知っていたし自然に対応していた。だが、その方は盲導犬との暮らしをしていたのではなかった。だから、私も実際犬がそこにいたときにどうするか、知っていたわけではなかった。その意味でも勉強になった。
 できること。小さなことは、こういうことについての理解をすることから始まると信じている。大げさなことはいらない。特別な負担をする必要はない。理解をするということは、ささやかだが何より大切な、「できること」ではないかと思う。
 人間に大切なのは何か、私たちの狭い了見を、改めさせてくれる本の一つではないかと思う。




Takapan
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