本

『四季のさかな話題事典』

ホンとの本

『四季のさかな話題事典』
金田禎之
東京堂出版
\2520
2009.9.

 単純に魚類の図鑑や事典というわけではない。この本には願いがある。それは、日本古来の魚の文化を伝えようというものである。
 当たり前のことだが、日本での食文化といえば、魚は外せない。かつての漁獲高世界一という地位もなるほどという具合である。一部の外国人が忌み嫌う海洋生物も、立派な食文化である。新鮮な魚が手に入りやすい国では、その分調理にも幅が出る。料理の種類も多い。
 しかし、近年その消費が落ち込んでいる。骨がある、などといった単純な理由で、敬遠されるのだ。自分一人くらい、と誰もが思っている間に、日本人が魚文化を忘れていってしまっている。そこから増加した病気も多いことだろう。
 豊かな文化としての魚というものに、もっと脚光が当たってほしい。著者は、水産行政関係の経歴を誇る専門家である。職業上知り得た様々な情報や知識もあることだろう。それをこの一冊に収めてしまうなど、無理難題に等しいだろうが、渾身の力で魚を解説している。
 まず、その名の由来。これだけでも読者としては勉強になる。鰤の字のつくりは、師走のことだったり、鯖が国字であるのはよいとして、その名は、歯が小さく狭いところからきているといったり、タコは多股と足が多いことからきているとあったり、興味深いことが何気なく挙げられている。たくさんの知識をこれだけの限られたスペースに入れるのは大変だっただろう。
 その魚の生態の特筆すべき特徴や、調理法はもちろん、捕まえ方なども面白い。そして何よりも、日本の古典文学の中での魚の現れ方にこだわりがあるところが目立つ。季語としての魚には特に細かい。同じ魚でも、ちょっと表現が変われば季節も変わるなどと、はっとさせられる記事も多い。
 だから、科学的な生態というよりは、生活密着的で文化的な角度から捉えた魚というものを描いた、読み物として面白い事典であるといえよう。たぶん、生物学的な観点から説かれているのではない。
 さらに、魚の項目には、魚の精巧な絵が掲げられているのであるが、これは著者の奥様の手によるものだという。実に正確なデッサンで、魚の観察についても丁寧である。今にも生きて動き出しそうな魚たち。本誌がモノクロ印刷であるのがもったいない。そのためか、本の最初にカラーのイラストが4頁だけ設けられている。美しい絵である。
 スーパーマーケットの魚売り場では、なかなか得られない、魚文化。小さな魚屋だと、初めての名の魚にもふんだんに会える。そして、その魚の生態なり味なり調理法なり、魚屋の主人に尋ねてみるといい。この本は、その説明をさらに文化の中に位置づけて行っているというような具合であろう。なるほど「話題事典」というのは、実にユニークで的確であった。




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