本

『一生使える器選び』

ホンとの本

『一生使える器選び』
内木孝一
講談社
\1470
2008.8

 ありそうで、なかなかないタイプの本ではないかと思った。
 和食器のノウハウ。それも、非常に実用的で、また由来からきっちり抑えて説明してくれる本である。
 いわゆる芸術家本人ではなくて、京都の陶器店で勤務したうえで、東京にうつわのみせ「大文字」を開店する。そんな著者が、まるで自分がかつて陶器や磁器について学んだことをそのまま読者に語りかけるように、丁寧に伝えていく。そういう温かな気持ちを、この本からは感じたような気がした。
 特別に専門的なことばかり並べたわけでもない。かといって、主婦の雑誌で役立つだけの知識に抑えたわけでもない。奥深いものを見つめつつも、日常の使用にどうすればよいのか、どこを見ればいいのか、そんな日々の視点から、食器について語ることから離れない。実に懐の広い描き方である。
 使用や収納の知恵から、素朴な疑問まで、Q&Aの形でも分かりやすく述べた章がある。急須と土瓶の違いなど、一言でズバッと示されると、参りました、という感じがする。
 あまりにも毎日使いすぎて、別段なんとも思わなくなったような食器たち。しかし、この本に出会った後、改めて食器を見ると、そのひとつひとつに、非常に愛着を感じ始めるような気がした。器たちが、私に向かって、何か語りかけてくる。何か言いたそうな顔をしているのだ。
 すると、その食器をどう扱い、どう洗えばよいかなど、自ずから分かっていくように思える。もしかすると、著者は、そんなところを狙って、丁寧にここまでよい本を仕上げてくれたのかもしれない。その術に、まんまとはまったみたいだ。
 もちろん、大した知識もなければ、名作を購入するような余裕もない。けれども、たとえ百均の器でも、自分の大切なパートナーとして向き合うことができたなら、なんだかそれはとても幸せなことなのではないか、というふうに感じたのである。
 そんな体験を連れてきてくれるような、本であった。




Takapan
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