本

『13歳からの頭がよくなるコツ大全』

ホンとの本

『13歳からの頭がよくなるコツ大全』
小野田博一
PHPエディターズ・グループ
\1300+
2014.9.

 勉強のコツ云々という本は数多あるが、教育現場で子どもに教えている人のものや、教育評論家のものが多い中で、この著者はそのどちらにも合いそうにない。チェスやパズルに長けた本をよく出している。
 それが、13歳という年代にターゲットを絞って、学習の方法を提示しているので、果たしてどうかしらという感じもした。この13歳という年代は、自分で学習方法を見出していかねばならない時期である。小学校のときとはテスト環境が変わるので、いきなり自学の世界に放り込まれるのである。いきなり完全な学習スタイルが決まるわけではないから、しばらくいろいろ試行錯誤しながら、自分にとりどういう仕方が合っているか模索すればよいのであるが、近頃はあまりにそれを最初から失敗しないように準備したがり、また準備しろと迫る商業主義がつきまとう。勉強法の本もよいが、それは模索のための一つの材料提示に過ぎないはずなのだ。
 さあ、そういう意味ではこの本はどうだろうか。
 私は、心がけとしてはユニークでよいと思う。実は何冊かある著者の類似の本がこれまであったのだが、それらを合本にした、というのがこの本の意味であるようだ。だから「大全」という言葉が付いている。
 今、「心がけとしては」と私は記した。まことに精神論の強さがここにある。勉強なるものを好きになればよいのだ、というのが最初の3分の1の主張であるように見える。好きになれば意欲も出る。必要に迫られていると思うのであれば、好きになることは無理ではない、と著者は言う。ここにはひとつのトリックがある。そもそもこの本を買って読もうとする13歳がいるとすれば、学習が必要だと考えているはずだし、必要を感じている子どもたちであるはずだ。そういう動機がそもそもある子どもたちに対して、語りかけ、好きになる要素が十分あるのだという導きをするというのは、心理的にひとつのトリックの中にある方法のようだと感じる。
 次は、作文についてだ。これがなかなか類書にないような魅力をもっている。尤もらしい原稿用紙の使い方や、好きなことをなんても書こう、といった曖昧なものではない。言いたいことを必ず決めてかかろう、ということと、それを基本的に最初に言っていまおう、それが作文なのだ、とする定式を示すのである。もちろん、タネを隠しておいて後で示す方法もあるが、それは読書感想文などに譲るとして、最初はまず「要するに何」をズバッと書くべきだと主張する。これは、文章を書き慣れた者から見れば実に当然のことである。私が見れば、その通りだと賛成するのだが、そもそもあまり書く気がなかったり、文を書くということが苦痛でしかないような子にとって、どれほど伝わるのかは興味がある。
 最後に、暗記の方法だ。この記憶ということについては、専門学校で教えた経験なども著者があるから、やってきたことなのだろうが、出されている例があまりよくない。中学1年生が現実に苦労している英単語を持ち出すようなことがなく、およそ大学院入試でマニアックな知識が必要であるような場合に備えたような、妙な単語ばかり例に出してくるのだ。これははっきり言うが、13歳のためではない。英単語については多くの実例をもって、記憶法が示されているのだが、どれひとつとして、13歳に相応しい内容ではない。また、英語に触れ始めた子に説明しても理解可能なレベルの内容ではない。歴史のこともちらりと上がっているが、これも13歳に適さないのと、やたら自分が好きなのか、マニアックな歴史の知識や、キェルケゴールについてどう覚えるかなどというようなことが書いてあるが、これも13歳対象でないものばかりだ。
 こういうわけで、教育現場に立たない頭脳明晰な著者による本書は、あまりに中学生の置かれた領域からは逸脱している。13歳にものを教える人のためのコツであることは認めるが、どうにも、子どもが読んでなるほどと勇気をもらうような本ではない。著者のように頭の良い人にとってはよいかもしれないが、どうにも不自然な実例ばかりだ。どこの中学生に、「考古学」だの「バショウカジキ」だの「不眠症」だのといった英単語の学習が必要だというのか。
 するとこう言われるかもしれない。タイトルには、13歳「からの」、と書いているよ、と。対象は13歳以上であるから、二十歳でも三十歳でもよいのではないか、などと。
 本の帯に「東大卒の著者が、頭がよくなる秘訣をまとめて教えます」と大きく書いてあるのだが、頭が良すぎると、あまり頭の良くない多くの人の考え方というものは、ご理解戴けないのかもしれない。教える者にはためになったが、教えられる学生にとりどうであったか、このタイトルについては、不可解でならない。あるいは、捉えようによっては、悪意すら感じるものである。




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