本

『知識ゼロからの教会入門』

ホンとの本

『知識ゼロからの教会入門』
船本弘毅監修
幻冬舎
\1300+
2015.2.

 評判がよいようだ。書店の期待も高く、宣伝も多い。「知識ゼロからの」という冠の言葉も悪くない。なにより、表紙がきれいである。そして、中も、豪華な写真集のような趣があり、価格を安く思わせるものを感じる。
 さて、内容は教会堂の紹介である。「教会」が人を表している、などといった教義的なものから入るのではない。それをすると、逃げる読者層がいることだろう。ほらまた、信者にしようとして聖書の奥深い特殊な意味の説明が始まった、と警戒をする人がいるかもしれないのだ。それよりも、読者のごく普通の教会像のようなものをすんなり認め、そこからとにかく「場所」としての教会に終始するのが、読者サービスというものであろう。
 ただ、それはたんに美しい建物というばかりでなく、「神を礼拝する場所」であるという基本たけは押さえておく。そうすることにより、同じ美術的な感覚で見るにしても、これは神を礼拝する心から造られたものである、という基本的なスタンスが保たれることになる。それが、この鑑賞を有意義なものにしていくであろう。
 こうしたアプローチには教えられる。
 監修者は一流の神学者である。そこで聖書の信仰に導きたいような思いが多々あると思われるのに、こうしてストイックに、読者の要求に合わせてひたすら教会を説明する。ただ、やはりそこには根底的なものがあるから、ただの表層的な見方でないところはいい。
 まずは、建築様式である。バシリカ式などの説明から、ビザンティン様式、ロマネスク様式、ゴシック様式、そしてバロック様式と展開して、モダニズムに至る歴史を眺める。それぞれの特徴や考え方を簡潔に説明するところは見事である。この区別が、後のこの本の鑑賞にも大きな意味をもつので、この様式の区別は、読者としてはひとつひとつ丁寧に押さえておくことが望ましい。しかも、それぞれが写真で適切に紹介されるし、図解も多く、ただ見ているだけで頭に入るようになっている。これは、学習参考書でも使えるテクニックであろうが、なかなかよくできている。
 それから、教会に共通するシンボルについての解説が続く。尖塔から鐘、そもそも十字架とは何かというあたりにも触れつつ、祭壇についての説明、またモザイク画とフレスコ画の違いとその事情なども短く的確に触れられており、勉強になる。
 面白いのは、ミサや聖歌について説明した後、直ちに「キリスト教徒になるにはどうすればよい?」という項目があることだ。普通なら、信仰案内の本には、自分の罪を知りキリストがその罪の身代わりに……と百発百中くるはずなのに、この本は違う。「教会に通い、ミサに参加するなどしていると、キリスト教の教えに感銘を受け、自分も信徒になりたいと考える人もいるだろう。ではキリスト教に正式に入信する場合、どうすればよいのか」とあるだけである。ここから「洗礼」の説明が続くだけである。これには驚いた。そうきたか、とちょっと感銘を受けた。信仰は、そうしたものではない、と、伝道する牧師はきっと言うだろう。だが、聖書や教会について現時点で「知識ゼロ」の読者にとっては、信じるというのは、こういうことなのである。読者のスタンスにぴったり合った説明であるという点で、私はこの本の満たしている役割をひしひしと感じた。すばらしい説明だと思った。
 この後、世界の有名な教会の紹介とその写真が続く。教会堂の魅力を伝えるには、やはりカトリックが一番である。東方教会も美しさで混じってくるが、悲しいかな、プロテスタント教会には、鑑賞のためのうならせる教会堂というものが実に貧弱である。もちろんこの本には、そのわけも記されている。ここでは、カトリックに軍配が上がる。世界のカトリック教会の見事な建築がたくさん紹介される。著者は、「花子とアン」に登場したモデルの大学の学長も務めた、プロテスタント教会の学者であるが、この「教会」の紹介としての本書では、立派にキリスト教の美しい教会堂を表に出して、示している。
 世界中の美しい教会の写真を見ているうちに、私も、こうした教会を直に見てみたいものだと思うようになった。それほどに写真も美しく、紹介もすばらしい。すなわち、本としての出来具合は成功している、ということなのだと思う。
 ただ、一つだけ、まずいと思う点を挙げる。それは、船本弘毅氏が「監修者」に過ぎない、という点である。いや、監修者であって悪いことではないのだが、本の表紙にそれが記されていない。どう見ても著者であり、この本の原稿を全部書いた人であるようにしか見えないのである。名を知らない人が手に取るだろうという安易なごまかしのようで、これはいけないと思う。「はじめに」を見ると、本文を書いていないことが分かるが、一般の読者には見抜けないだろうと思う。それでも、本の終わりの発行情報のところになって初めて、「監修者」と書かれているから、虚偽は書いていない、というつもりなのかもしれないが、だとすればなおさら、私は詐欺的な手法を感じてならない。著者でない人を著者であるかのように見せている。「芽がでるシリーズ」と題して、この「知識ゼロからの」には何冊もあるようだが、すべてこのような方法で、名前を借りた有名人を著者だと称して出版して宣伝しているのではないかという疑惑を起こさせる。実際、この本ではそれをやってしまった。売り方としてはうまいかもしれないが、これは偽りである。そして、私は類書をいろいろ見ているが、今まで見たことがないタイプのやり方である。嘘はいけない。ともすれば、著者の名にも傷がつく。売り方のうまい幻冬舎だが、こうしたやり方をする会社だったのか、と私はこれまでの見方を変えなければならないと思った。




Takapan
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