酉年と酒

2005年1月


 ヨハネによる福音書の2章は、いわゆる「カナの婚礼」の話で始まります。
 故郷近くの婚礼の場にいたイエスが、不足したぶどう酒の件について母マリアに相談されて、水瓶の水をぶどう酒に変えるという奇蹟を起こしたという話です。
 
 ぶどう酒は、当時は今よりも酸っぱいものだった、という説明がなされることがあります。イエスの十字架のときに口に含ませられようとした酢がそれではないかというのです。
 しかしまた、そうした酒は、どこか病を治す力をもつようなものとしても考えられていたことが、書簡の中からも窺えるし、酒をおおらかに楽しむことが推奨されているように読めるところも聖書には見られます。
 他方、酔って自省を失くすと大変なことになるという警告も少なくありません。
 
 ですが、こうした聖書と酒との関係を、今回ご紹介しようというわけではありません。聖書に出てくるから連想したわけですが、ここでは、「漢字」についてです。
 
 
 聖書とは、さしあたり全然関係がないのですが、漢字というものから面白い連想をすることがあります。日本の牧師が時折、漢字をインスピレーションに福音を語ることがあるという気持ちが、少し分かるような気がするわけです。たとえば、すべての王の「王」の言葉を「耳」で聞き「口」で告白することが「聖」なることだ、などとアドバイスするみたいに。
 酒について、それがイエスの最初の「しるし」であった旨記されていますが、この「酒」という漢字について、少しばかり楽しみつつ考えてみることに致しましょう。
 
 私は今年2005年に記しているわけですが、干支がトリです。暦の十干のうち、祖先たちはこの「酉」を「トリ」にあてました。
 カナの婚礼の席では酒が話題になりましたが、この「酒」という漢字は、部首が「酉」です。さんずいではありません。「ひよみのとり」という部首です。
 そしてこの「酉」は、酒樽の形に由来しているそうですす。意味の濃いものを部首とする原則から、この文字は「酉」を部首としてもつことになります。
 それに「さんずい」を付けると、もちろん「酒」となります。
 
 この部首の漢字でほかに小学校で学ぶものの中に、「配」という漢字があります。
 私の手元には、白川静先生の『常用字解』(平凡社)という本があります。この本の「配」の頁には、こんな説明がしてあります。――「己」の部分は、古くは「卩」と書いて、ひざまずく人の形であるといいます。「酒器の前に人が跪く形」が「配」であることから、人に酒器をわりあててくばることなどを示すようになったのだそうです。
 キリスト教会の「聖餐式」を想起させるような説明だと思いました。
 
 また、「尊」という文字にも、この「酉」が隠れています。こちらは、酒樽を「両手で捧げて神前に置く形」であるといいます。
 教会でもたれるイメージとしては、神への捧げものでしょうか。漢字には、尊いものであると共に、捧げた者の地位が貴いかどうか定められるという意味があったのかもしれません。
 
 ほかに「酔」は、元々「醉」と書き、この「卒」に隠された意味に「散乱する」というものがあるため、酒によって心が乱れるさまを表すようになったとあります。酒は心を散らからせてしまうというようです。
「酸」は「酢」からきており、その「酢」は、「客が主人に返杯すること」を表すのだそうです。「献」が、主人が客に杯をすすめるならば、それに報いることが「酢」だというのです。ほかに過ぎ去る意味から、酒が長時間経って酸っぱくなることから、私たちの理解するような意味が流れてきたようです。
 残酷の「酷」は、「酒の味が濃厚なこと」だそうです。その厳しさから、激しくひどい意味になっていったと推測されています。
 次に「醜」。白川先生は、「鬼」の形であったか疑問だと記していますが、酒による儀礼が普通と異なった姿であることから醜いと解したのではないか、と少し判然としない説明のように聞こえますが、どうなのでしょう。
 最後に「酬」。杯を返すこと、杯をやりとりすることを意味します。恩義に報いるということで、私たちにも理解しやすい解説となっています。
 
 これらは、聖書に基づくものではないと思いますし、中国生まれの漢字に実は神のメッセージが隠されていた、などと強調したいがために持ち出したわけでもありません。
 でも、ヘブル語の語源とかアラム語ではどうかとか、聖書の原語の立派な解説だと「ふうん」で終わることが、漢字で語られると「なるほど」と思えてしまうことが私たちにはあるのも事実。
 1つの部首「酉」からでも、連想逞しく、聖書を味わえるとしたら、なんとも「美味い」話ではありますまいか。不謹慎だと言われようと。 



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